いきぐされ

言い訳と練習

0429

結局あのあと始発までカラオケにいて、誰ひとり横になることもせず歌い続けていた。意識が後ろから引っ張られているのを感じながらよろよろと駅に向かう。陽が上る前の青白い渋谷も汚くて嫌だった。帰ってきて倒れこむように横になり、寝ないと寝ないととうとうとしているうちにアラームが鳴った。

まこに会いに行く。約束の時間より結局1時間も遅れて到着した。田舎だから…と言われていたが確かに田舎だ、なんていうか東京の田舎。個人商店と渋い居酒屋とスナック、あと野良猫がいっぱいいる。野良猫よけのペットボトルがその倍。「ぱぱす」という初めて聞くドラッグストアで、贅沢するぞ!とお菓子を買い込んだら600円だった。24歳になってもサッポロポテト一袋で3時間会話ができるぞ。

すごくきれいでおしゃれなマンションだったのでいい部屋!いいなーいい部屋!としきりに言ってはそうでしょうと返される。人の部屋を見るの好きだ。なんの遠慮もせずじろじろ好きなだけ見た。3冊だけ持ってきたという本のうち、彼女の教授が卒業の日にくれたという「ゆきのひの うさこちゃん」がそれをくれた教授の意図も含めてわからないと言うので、どちらからともなく開いて読み始める。何も示し合わせることなく1ページずつ交代しながら最後まで朗読した。むりやり教訓らしきものを読み取ろうとしたり失敗したりしたけどディックブルーナの絵本に教訓なんてなかった気がする。絵本に教訓ってあったろうか。はらぺこあおむしは穴があいてて面白かったしバムとケロはパンケーキがおいしそうだった。

帰り際、駅まで数十メートルというところで「わたしって優しくないんだよね」と、その場で気づいたかのように言われる。いや優しいでしょ、とは言えなかった。彼女はまぎれもなく優しい、優しいか否かで人間を二分するなら真っ先に「優しい」チームに呼ばれる。でも優しくあろうと努力してそうなっている人間ではないんじゃないかと思う。生育過程で善性が組み込まれているというか。嫌な言い方。彼女のしたいと思ったことがまっさきに誰かを助けたり喜ばせたりすることにつながっているような。ということを思ってそのまま伝えると、まったく納得のいってないような嫌そうな顔をされておかしかった。でもまこが何も考えていないわけはなく、わたしがそう思ってしまうのは彼女の行動のてらいのなさと迷いのなさによるものだろうと今思う。

まこと会った後はすごくすごくすごくいい友達を持ったなとふかふかしながら帰る。もっといろいろしたしそれはそれは楽しかったけど、なにぶん文章がうまくないので書き起こそうとすると不細工になってしまう。その代わり写真をたくさん撮った。いい一日だった。